文:「INITIATIVE」編集部
音楽大学の卒業生のうち、国際コンクールでタイトルを取得したり、大手音楽事務所に所属して演奏活動を行う、いわゆる“プロ”の演奏家になれるのは、ほんの一握り。過去には、音大生の卒業時の就職率はわずか4割程度という調査も出ています。「卒業後も音楽を続けたい!」と夢を想い描く学生にとって、進路は大きな壁として存在しています。
しかし今、「インディペンデント・ミュージシャン」という新しい音楽家の生き方があることを、皆さんはご存知でしょうか。今回は、パソナで音楽家支援事業を担当する道嶋彩夏さんに、大学卒業後も音楽を長く続けるための方法や、音楽家としてのキャリアの可能性について伺いました。 |
音楽は続けたい。でも…。
有名なコンクールでの入賞経験や、大手事務所に所属していないと演奏家になれないと思い、音大を卒業する時点で音楽の道を諦めてしまう学生は多くいます。
しかし、約6年間に渡り音楽家の活動支援を行ってきて思うのは、これまで音楽を専門に勉強してきた方は、その経験を決して否定する必要はありませんし、音楽と関わりながら生きていく方法は無数にあるということです。
私たちは、進路に悩む音大生に向けて「インディペンデント・ミュージシャン」を目指そうと伝えています。
音楽事務所に入ると、スケジュール管理や新曲のプロモーション、仕事の受注など、演奏以外の業務全般をサポートしてもらえます。
しかし裏を返せば、これらすべてを自分の力で行い、自分自身をプロデュースすることができれば、事務所に所属しなくても「音楽を続ける」という夢を叶えることはできるのです。
インディペンデント・ミュージシャンとして
実際に、仕事と音楽の両立を経てプロに転向した方もいます。現在、プロの音楽家として活躍する植野愛さんもその一人です。
植野さんは学生の頃から、音楽の仕事だけで生活していくのは難しいと感じ、「個人事業主としてセルフプロデュースや営業活動、経理関係などを自分で行うことができれば、音楽を仕事にできるかもしれない」と考えていたそうです。そこで、パソナのWキャリア研修プログラム(ミュージックメイト新卒採用)の門を叩き、パソナでのオフィスワークと並行して、土日に音楽教室での講師や演奏活動を行っていました。
3年間働いた後、ピアニスト兼ピアノ講師として独立し、大手楽器店でのピアノ講師の仕事と自宅でも音楽教室を開業、ピアニストとしても定期的に演奏依頼を受けるようになっています。現在はピアノ講師として40名ほど生徒さんを指導しながら、ピアニストとして月5・6本の演奏の場があるそうです。
植野さんは学生時代から「将来は独立した音楽家になりたい」というビジョンを持っていましたが、いま進路に迷っている学生の方もいるでしょう。そうした方に私が伝えているのは、「できるかできないかではなく、自分は音楽とどう付き合っていきたいのかを考えて欲しい」ということです。
音楽家は、いつ芽がでるかも分かりませんし、どこにチャンスが転がっているかもわかりません。もし、音楽を続けたいという情熱を持っているのなら、細くでも長く続ける道を考えて欲しいと思います。
▲パソナグループ本社で演奏中の植野愛さん
オリンピックは音楽家にも大きなチャンス!
この先、音楽家には大きなチャンスも広がっています。それは2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックです。文化庁はオリンピックをスポーツの祭典としてだけではなく「文化の祭典」として開催し、今後4年間で20万件の文化プログラムを全国で実施することを目標に掲げています。
これを担うのは、現在プロとして活躍している芸術家だけではなく、地域に根ざした団体やNPO、働きながら音楽を続けている方まで、多くの方に可能性があると思っています。
音大を出てすぐにプロの音楽家として活躍できなくても、別の仕事と両立しながら音楽と関わったり、そうした社会人経験をベースにして「インディペンデント・ミュージシャン」として働くという、音楽家としての多様な生き方があることを知って欲しいです。そして、そのような様々な音楽家が活躍する社会を創っていきたいと思います。
●株式会社パソナ 営業総本部 ミュージックメイト担当 ユニット長 道嶋彩夏
音楽大学卒業後、2010年にミュージックメイト社員としてパソナに入社。ミュージックメイト担当として、音楽大学生のキャリア支援や、音楽家向け各種セミナー・イベントの企画・運営に携わる。プライベートでは、NPO法人ワールドシップの活動を通じて、カンボジアにてピアノコンチェルトを演奏。2015年12月より現職。働く音楽家の情報サイト「Musicians」でも、芸術系大学生の就職活動にまつわる記事を配信しています。http://www.music-mate.pasona.co.jp/ |
●芸術系大学生向け「Wキャリア応援制度」とは
パソナでは、日々のお仕事の紹介から芸術活動の支援まで、芸術分野に携わっている若手芸術家の方々の働き方をサポートしています。
パソナの芸術系大学生向け新卒採用プログラム「Wキャリア研修プログラム」は、自分自身を、自分の力でプロデュースできる独立した芸術家の育成を目指す研修プログラムです。パソナの契約社員として1年間就業し、月2回音楽的な研修を行います。1年間のプログラム後の進路は、継続してWキャリアを続ける方、プロの音楽家として卒業する方、サポート側として音楽業界に就職する方など様々です。
この他にも、パソナは芸術家支援事業として、派遣の仕事を紹介し音楽と仕事の両立を支援する「ミュージックメイトスタッフ制度」や、演奏依頼を紹介する「アーティスト登録制度」などを通じて、音楽を続けたいと願う方々をサポートしています。
http://www.pasona.co.jp/music-mate/ |